遺言は、遺言者の明確な最終意思を確かめて、これに法的な効果を与えようとする制度です。

 遺言でできる主なことは、以下のとおりです。 

①遺言執行者の指定又は指定の委託
②後見人又は後見監督人の指定
③相続分の指定又は指定の委託
④遺産分割方法の指定又は指定の委託
 現物分割による配分方法のみならず、換価分割や代償分割、共有分割等、分割方法を自由に指定することができます。
⑤遺産分割の禁止
 被相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。
 分割禁止の遺言がある場合、相続人は、その期間中、協議による分割はもちろんのこと、調停、審判の申立もできません。
⑥遺贈減殺方法の指定
 遺留分減殺の順序について、全ての遺贈は贈与より先に減殺することになっていて、遺贈が複数ある場合はその価額に比例して減殺しなければなりませんが、遺言で定めをすれば、遺贈の減殺については価額に比例して同時になすことを要しません。
⑦遺贈及び寄附行為
⑧子の認知
通常の認知は、戸籍上の届出によって成立しますが、遺言による認知の場合は、遺言の効力が生じた時に認知の効力も生じます。
⑨相続人の廃除又はその取消
⑩祭祀の承継者の指定

  
 遺言が効力を認められるためには、本人の意志に基づくもの、つまり合理的な判断をする能力が必要です。
 このため未成年者であっても、満15歳に達していれば、遺言の能力があるもとのとして、法定代理人の同意を得ることなく遺言をすることができるとされる一方、満15歳に達しない者は遺言をすることはできず、その遺言は無効とされています。
 また成年被後見人の場合、医師二人以上の立会があれば、遺言の時に本心に復し意思能力を有していれば有効な遺言となります。
 被保佐人は、不動産の売却など一定の重要な財産行為をするには、保佐人の同意が必要とされていますが、保佐人の同意なく有効に遺言することができます。
 このように遺言が有効か無効かの判断基準としては、遺言者の遺言当時の能力の有無が基準となります。その有無の基準は、遺言者のこれまでの生活状態、遺言書作成の具体的経過、遺言者の症状についての医学的判断及びその法的評価、遺言書の内容などの諸事情を詳細に認定したうえで、判断することになります。
 病床で自筆証書遺言をする場合など遺言能力の有無が問題とされることが予想されるときには、医師に意思能力がある旨の診断書を作成してもらっておきましょう。


①遺言の要式性
 遺言は厳格な方式が要求されます。
 原則この方式を守らない遺言は、効力を認められません。
 例外として、無効行為の転換が認められることはあります。
 方式違背の訂正・取消は、訂正・取消そのものが無効とされます。しかも、遺言全体に占める訂正条項の重要性から判断して、訂正条項の無効が遺言全体に重大な影響を及し、遺言の趣旨、目的を没却するような場合には、遺言全体が無効になると可能性もありますので注意が必要です。

②共同遺言の禁止。共同遺言にしても無効。
 共同遺言とは、2人以上の者が、同一の証書(遺言書)で遺言を行うことを共同遺言といいます。
 たとえ、遺言条項として完全に独立して、それぞれの遺言条項の作成者が明確に特定できる場合でも、複数人が同一の証書で遺言を行えば、共同遺言となります。

③遺言の方式には、普通方式と特別方式があります。
 普通方式の遺言として、(1)自筆証書遺言、(2)公正証書遺言、(3)秘密証書遺言があります。
 特別方式の遺言は遺言者に死亡が迫っている場合の遺言として、 (1)一般危急時遺言(民法976条)(2)難船危急時遺言(民法979条) 一般社会と隔絶した環境にある場合の遺言として、 (3)伝染病隔絶地遺言(民法977条)(4)船舶隔絶地遺言(民法978条) があります。また死亡の危急からの回復や、隔絶状態の終了によって、遺言者が普通方式の遺言を行うことが可能になった時から6ヶ月間生存するときは、特別方式の遺言の効力は失われます。そのため、同内容の遺言を実現するためには、改めて普通方式の遺言を行う必要があります。

 
  自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに押印することによって成立します。

 自筆証書遺言のメリット・デメリット
 自筆証書遺言は、文字の書ける人であれば誰でも作成でき、費用もかからず、しかも作成の事実を誰にも知られないなどのメリットがあります。
 しかし、方式不備で無効とされる可能性が高く、その内容の真意が争われる可能性も高いといえます。
 また、遺言書が公証役場に保存されるわけではないため、偽造、変造、紛失、滅失のおそれがあるという大きなデメリットがあります。

  公正証書による遺言は、証人二名以上の立会いがあること、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること、公証人がその遺言者が口述した内容を筆記して遺言者及び証人に読み聞かせること、遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名、押印すること、公証人が適式な手続に従って作成されたものである旨を付記して証書に署名、押印することによって作成します。

 公正証書遺言のメリット・デメリット
 公正証書遺言は、遺言書の原本が公証人役場に20年間保存され、紛失、滅失などのおそれがありません。また、専門家が関与するため、遺言者の意思を正確に実現することができ、また方式の違反によって遺言が無効とされる可能性も極めて低いといえます。
 手続的には、一見面倒そうに見えますが、実務的には簡単なものとなっていますので、遺言は原則として公正証書遺言によるべきです。

   
 秘密証書遺言は、遺言者がその証書に署名押印すること、遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章でこれに封印すること、遺言者が公証人1人及び証人2人以上の面前で封書を提出して、それが自己の遺言書である旨並びに氏名及び住所を申述すること、公証人がその証書の提出された日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名押印することにより作成します。

 秘密証書遺言のメリット・デメリット
 秘密証書遺言は、遺言書の存在を明らかにしながら、内容を秘密にしておけるというメリットがあります。
 一方、手続が面倒である割には遺言の効力が争いになるおそれがあり、また、遺言書が公証人役場に保存されるものではないため、紛失、滅失等の危険があるというデメリットがあります。


 遺言者は何時でも遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。
 遺言者は、遺言の撤回権を放棄することはできません。
 前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなされます。
 また、遺言者が故意に遺言書を破棄した部分については、遺言を取消したものとみなされます。
 遺言の撤回ができるのは、遺言者本人に限られ、代理人、相続人による撤回は認められません。
 複数の遺言書が存在する場合、その優劣は、作成日の前後によって決することとなります。撤回は遺言の方式によればよく、撤回する遺言が撤回される前の遺言と同じ方式である必要はありません。
 もっとも、遺言は要式行為ですから、発見された複数の遺言書について、それぞれが、遺言の形式を遵守しているかをまず確認する必要があります。形式を満たしていない遺言書は、そもそも法律上の遺言とはいえないため、遺言の優劣に関して考慮を行う必要がありません。

 遺言の撤回の方法として、次のような態様があります。
・前にした遺言を撤回する旨の遺言
・前にした遺言と内容が抵触する遺言
・前にした遺言の内容と抵触する遺言者の生前処分
・遺言者による遺言書の破棄
・遺言者による遺贈の目的物の破棄


 次の場合は、遺言は無効で効力を生じません。
(1)  法定の方式を欠くとき(民法第960条)
(2)  遺言者が遺言無能力者(15歳未満)であるとき(民法第961条)
(3)  遺言者が遺言の意思を欠くとき
(4)  遺言の内容が公序良俗に反するとき(民法第90条)
(5)  受遺欠格者に対する遺贈(民法第965条、891条)
(6)  被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたとき(民法第966条)

 ※遺留分による制限
 兄弟姉妹以外の相続人には、相続に際しての最低限度の取り分として遺留分が保障されています。
 遺言者が、遺留分を侵害する財産配分を規定した遺言を作成した場合、遺留分権利者からの遺留分減殺請求によって、事後的に遺言条項の一部が効力を生じないことになります。

 

 財産行為を内容とする遺言について、詐欺、強迫があった場合は、遺言者において取り消すことができます(民法第96条第1項)。しかし、遺言者は生存中遺言を自由に撤回することができますので(民法第1022条)、この取消権は遺言者の相続人に承継されることにおいてのみ意味があります(民法第120条第2項)。
(1)遺贈とは
 遺贈とは、遺言によって遺産の全部又は一部を特定の人に無償で与える行為をいいます。
(2)遺贈の無効
 遺贈特有の無効原因として、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合、停止条件付遺贈において、その条件の成就前に受遺者が死亡した場合、遺贈の目的たる権利が遺言者死亡の時に相続財産に属していない場合などがあります。
(3)遺贈の取消
 負担付遺贈について、受遺者が負担した義務を履行しない場合、相続人は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、遺言の取消を家庭裁判所に請求することができます。
 取消が認められた場合には、受遺者が受けるべきであった権利は、遺言に別段の定めがない限り相続人に帰属することになります。


(1)遺言の執行とは、遺言が効力を生じた後に、遺言の内容を実現するべく必要な処理をすることをいいます。
 遺言執行の準備手続として遺言書の検認および開封の制度があり、公正証書遺言以外のすべての方式の遺言について必要とされます。
(2)検認
 遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人は、相続開始後に、遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません。
 検認の申立は、相続開始地の家庭裁判所に対して行います。
 検認の申立があると、家庭裁判所は期日を定めて申立人を呼び出すことになります。検認手続は開封手続と異なり、相続人又はその代理人の立会は必須の要件ではありません。
(3)遺言書の開封
 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会のもと開封しなければならず、家庭裁判所外において開封した場合は過科に処せられます。
 封印のある遺言書とは、封に印が押捺されている遺言書をいい、単に封入された遺言書は含まれません。
 秘密証書遺言は封印することが要件とされていますから、常に開封手続を要します。
 開封と検認とは同一の手続で行われるのが一般的であり、実務では、家庭裁判所は提出された戸籍謄本によって相続人を確認したうえ、期日を定めて、相続人に呼出状を発して検認、開封の告知をしています。
 呼出状によって相続人等に立会の機会を与えた以上、現実にその立会がなくとも開封手続は実施できます。
(4)遺言執行者
 遺言執行者とは、相続開始後、遺言者にかわって遺言内容の実現を行う者のことをいいます。
 遺言者は遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができます。これを指定遺言執行者といいます。必ず遺言で指定する必要があります。
 指定遺言執行者が存在しないとき、または一度就職した遺言執行者が死亡その他の事由で存在しなくなったときは、家庭裁判所が利害関係人の請求によってこれを選任することができます。これを選定遺言執行者といいます。
(5)遺言執行者がすること
・財産目録の調製
 遺言執行者は、相続財産の目録を調製して相続人に交付します。
 相続人の請求があるときは、その立会のもとに財産目録を調製し、もしくは公証人にこれを調製させなければなりません。公証人に財産目録を調製させる場合には、相続人の立会いが必要です。
 財産目録調製の方式についてはとくに規定はありませんが、資産及び負債をともに掲げ、調製の日付を記載して、遺言執行者が署名するのが通常です。
・遺言の執行
 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。
 しかし、執行すべきことは遺言の内容によって異なり、すべての遺言執行者が同一の権限を有するわけではありません。
・遺言認知
 遺言で認知がなされている場合、遺言執行者は、就職の日から10日以内に戸籍上の届出をしなければなりません。
 成年の子の場合にはその承諾、胎児の認知の場合にはその母の承諾、成年の直系卑属を残して死亡した子の認知の場合にはその直系卑属の承諾が必要ですが、この承諾を得ることも遺言執行者の職務です。
・相続人の廃除および廃除の取消
 遺言による相続人の廃除および廃除の取消については、遺言執行者は家庭裁判所にその請求をなし、確定後に戸籍上の届出をする必要があります。
 審判が確定するまでの間、遺言執行者は利害関係人として、家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任その他相続財産の管理に必要な処分を請求することができます。

※執行を要しない事項
 相続分の指定及びその委託、特別受益者の相続分に関する意思表示、遺産分割方法の指定またはその委託、遺産分割の禁止については格別な執行を要しないとされています。
 また、後見人の指定及び後見監督人の指定は、遺言の効力が発生すると同時に効力が生じ、戸籍上の届出も後見人、後見監督人がなすべきものとされています。
(6)遺言執行者に対する報酬と遺言の執行に関する費用
 遺言執行者に対する報酬は、 遺言に記載があれば、その内容に従います。
 遺言に記載がない場合には、相続人全員と遺言執行者との協議で決定することとなります。
 協議が整わないときは、相続財産の状況、 その他の事情(執行行為の複雑性や、執行行為に要した時間等)を考慮して家庭裁判所が決定します (民法1018条)。
 信託銀行や法律事務所に遺言執行を依頼する場合には、事前に報酬を確認しておくとよいでしょう。
 また、遺言の執行に要する費用は、相続人の遺留分を害しない範囲で相続財産の負担とするものと定められています。
 
(7)遺言執行に関する費用
 遺言執行者は、遺言執行費用を相続財産から控除した上で、残余を相続人に分配します。
 実務の運用として、遺言執行者が遺言執行費用相当額を相続人から別途預かった上で、その中から執行費用を支弁し、相続財産からの控除は行わないという方式がとられることもあります。
 遺言執行費用として考えられるものは、
・遺言書の開封、検認手続費用
・財産目録調整費用
・相続財産の管理費用
・相続財産の移転費用や売却手数料
・相続財産の名義変更費用
・遺言執行者の報酬
などがあります。

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